インコタームズとは?貿易取引の必須知識を初心者向けに徹底解説

国際貿易を行う上で、「インコタームズ(Incoterms)」という言葉を耳にしたことはありますか?これは、輸出入者間の「費用負担」と「危険負担」の範囲を定めた世界共通の貿易取引条件です。インコタームズを正しく理解しないまま契約を結ぶと、「想定外の費用を請求された」「輸送中の事故の責任が自社にあった」といった深刻なトラブルに繋がりかねません。
この記事では、「インコタームズとは何か?」という基本から、実務でよく使われるFOBやCIFなどの具体的な規則、そして「自社に最適なインコタームズの選び方」まで、初心者にも分かりやすく徹底解説します。この知識が、貴社の国際ビジネスを円滑に進めるための確かな土台となります。
この記事の目次
1. インコタームズとは?なぜ貿易に不可欠なのか
インコタームズの定義
インコタームズ(Incoterms)とは、国際商業会議所(ICC)が制定した貿易取引条件の定義です。"International Commercial Terms"の略で、国や文化、言語が異なる輸出入者間での解釈の違いや誤解を防ぎ、スムーズな取引を実現するために作られました。
売買契約書に「FOB Tokyo Incoterms® 2020」のように記載することで、「どこからどこまでの輸送費用をどちらが負担し、貨物の危険(リスク)はどの時点で相手に移転するのか」を明確に定めることができます。約10年ごとに改訂されており、現在は「インコタームズ2020」が最新版です。
なぜインコタームズが必要なのか?
もしインコタームズがなければ、どうなるでしょうか?例えば、日本の輸出者がアメリカの輸入者に商品を売る場合、以下のような問題が起こる可能性があります。
- 費用の押し付け合い: 「日本の港までの運賃は払うが、海上運賃は輸入者が払うべきだ」「いや、それは輸出者の負担だろう」といった争いが発生する。
- 責任の所在が不明確: 輸送中に船が沈没し貨物が失われた場合、「まだ日本の港を出たばかりだから輸出者の責任だ」「いや、もう船に乗せたのだから輸入者の責任だ」と、どちらが損失を被るかでもめる。
- 手続きの遅延: どちらが輸入通関手続きを行うのかが不明確で、港に貨物が滞留してしまう。
インコタームズは、こうしたトラブルを未然に防ぐための「世界共通の言語」であり、安全で確実な国際貿易に欠かせないルールなのです。
2. インコタームズを理解する2つの重要ポイント
インコタームズには11の規則がありますが、全ての規則は以下の2つの重要なポイントを定義しています。この2点を押さえることが、インコタームズ理解の第一歩です。
① 費用負担の分岐点
運賃、保険料、通関費用など、貨物を輸送するために発生する様々な費用を、輸出者(売主)と輸入者(買主)のどちらがどこまで負担するのかを定めます。この費用負担が切り替わる地点を「費用負担の分岐点」と呼びます。
② 危険負担の分岐点(リスク移転のタイミング)
輸送中の貨物の紛失、破損、盗難などのリスク(危険)が、どの時点で輸出者から輸入者に移転するのかを定めます。このリスクが切り替わる地点を「危険負担の分岐点」と呼びます。これ以降に発生した損害については、輸入者が責任を負うことになります。
【重要】多くの規則では「費用負担の分岐点」と「危険負担の分岐点」は同じ場所ですが、一部の規則(C規則:CFR, CIF, CPT, CIP)ではこれらが異なる場所になるため、特に注意が必要です。
3. 【グループ別】11種類のインコタームズ一覧と特徴
インコタームズ2020には11の規則があり、輸送形態や売主の義務の大きさによって4つのグループ(E, F, C, D)に分類されます。

グループE:出発地・引渡し
- EXW (Ex Works / 工場渡): 売主の負担が最も小さい条件。売主は自身の工場や倉庫で商品を買主に引き渡せば、それ以降の費用とリスクは全て買主の負担となります。
グループF:主要運送費・買主負担
- FCA (Free Carrier / 運送人渡): 売主は指定された場所(自社施設、港、空港など)で、買主が指定した運送人に貨物を引き渡します。
- FAS (Free Alongside Ship / 船側渡): 在来船輸送用。売主は船積港で、本船の横に貨物を着けるまで責任を負います。
- FOB (Free On Board / 本船渡): 海上輸送用。売主は船積港で、貨物を本船の船上に載せるまで責任を負います。日本の貿易で最もよく使われる条件の一つです。
グループC:主要運送費・売主負担(ただしリスクは買主負担)
- CFR (Cost and Freight / 運賃込): 海上輸送用。売主は仕向港までの海上運賃を負担しますが、危険負担はFOB同様、船積港で本船に載った時点で買主に移転します。
- CIF (Cost, Insurance and Freight / 運賃・保険料込): 海上輸送用。CFRの条件に加え、売主が仕向港までの貨物保険を手配し、保険料を負担します。
- CPT (Carriage Paid To / 輸送費込): あらゆる輸送形態に対応。売主は指定仕向地までの運送費を負担しますが、危険負担は最初の運送人に引き渡した時点で買主に移転します。
- CIP (Carriage and Insurance Paid To / 輸送費・保険料込): あらゆる輸送形態に対応。CPTの条件に加え、売主が指定仕向地までの貨物保険を手配し、保険料を負担します。
グループD:到着地・引渡し
- DAP (Delivered at Place / 仕向地持込渡): 売主は指定された仕向地(輸入国内の指定場所)まで貨物を運び、荷卸しの準備ができた状態で買主に引き渡します。輸入通関は買主の負担です。
- DPU (Delivered at Place Unloaded / 仕向地荷卸渡): 売主は指定された仕向地で貨物の荷卸しまで行い、買主に引き渡します。
- DDP (Delivered Duty Paid / 関税込持込渡): 売主の負担が最も大きい条件。売主は輸入通関手続きと関税の支払いも含め、指定仕向地まで貨物を届ける全ての費用とリスクを負担します。
4. 【最重要】実務で頻出するインコタームズ4選を徹底比較
11種類全てを覚えるのは大変ですが、まずは実務で特によく使われる「EXW」「FOB」「CFR」「CIF」の4つの違いをしっかり理解しましょう。

EXW (工場渡)
- 売主の義務: 最小限。自社工場で貨物を準備するだけ。
- 買主の義務: 最大限。輸出国の国内輸送、輸出通関、国際輸送、輸入通関、全てを担当。
- ポイント: 買主が輸送の全てをコントロールしたい場合や、輸出国の物流に詳しい場合に有利。売主にとっては最も楽な条件。

FOB (本船渡)
- 売主の義務: 輸出港の本船に貨物を載せるまで。輸出通関も売主が行う。
- 買主の義務: 海上運賃、保険、輸入通関、仕向港からの国内輸送。
- ポイント: 日本の貿易で最も一般的。売主・買主双方の役割分担が明確でバランスが良い。買主は自分で船会社や保険会社を選べる。

CFR (運賃込)
- 費用負担: 売主が仕向港までの海上運賃を負担。
- 危険負担: 船積港で本船に載せた時点で買主に移転(FOBと同じ)。
- ポイント: 費用と危険の分岐点が異なるC規則の代表例。買主は自分で貨物保険を手配する必要がある。

CIF (運賃・保険料込)
- 費用負担: 売主が仕向港までの海上運賃と貨物保険料を負担。
- 危険負担: 船積港で本船に載せた時点で買主に移転(FOBと同じ)。
- ポイント: 買主にとっては、保険手配の手間が省ける。売主が手配する保険は最低限のカバーであることが多いため、買主は追加で保険をかけるか検討が必要。

5. 自社に最適なインコタームズの選び方【3ステップ】
どのインコタームズを選ぶかは、コスト、リスク管理、そして物流のコントロール権に直結する重要な経営判断です。以下の3ステップで検討しましょう。
- ステップ1:輸送手段を決める
まず、貨物を船で運ぶのか、飛行機や陸上輸送を使うのかを決めます。海上輸送(在来船・コンテナ船)にしか使えない規則(FAS, FOB, CFR, CIF)と、あらゆる輸送手段に使える規則(それ以外の7規則)があるため、輸送手段によって選択肢が絞られます。 - ステップ2:物流のコントロール権をどちらが持つか決める
自社でフォワーダーや船会社、保険会社を選定し、輸送プロセスを管理したいのか、それとも相手に任せたいのかを考えます。
・自社でコントロールしたい(買主の場合): EXWやFOBなど、自社で輸送を手配する範囲が広い条件を選びます。コスト削減や、信頼できる輸送パートナーを使いたい場合に有効です。
・相手に任せたい(買主の場合): CIFやDAPなど、相手が輸送を手配してくれる条件を選びます。貿易に不慣れな場合や、輸送手配の手間を省きたい場合に有効です。 - ステップ3:コストとリスクのバランスを評価する
各インコタームズの費用負担と危険負担の範囲を理解し、自社の価格設定やリスク許容度と照らし合わせます。例えば、DDPは買主にとって最も楽ですが、売主が負担するコストやリスクが価格に上乗せされるため、見積り総額は高くなる傾向があります。どこまでのコストとリスクを自社で負うのが最も合理的か、総合的に判断します。
6. インコタームズ利用時の注意点
- 必ず年版と場所を明記する: 契約書には「FOB Yokohama Port, Japan Incoterms® 2020」のように、規則名、具体的な港や場所、そして「Incoterms® 2020」を正確に記載します。
- 所有権の移転は定めない: インコタームズは費用と危険の負担範囲を定めるもので、貨物の所有権がいつ移転するかは定めません。所有権の移転時期は、売買契約書の中で別途定める必要があります。
- C規則の危険負担に注意: CFR, CIF, CPT, CIPのCグループの規則は、費用負担の分岐点(仕向地)と危険負担の分岐点(船積地)が異なります。この点を特に注意して契約しましょう。
- 保険の範囲を確認する: CIFやCIPで売主が付保する保険は、必ずしも十分な補償内容とは限りません。特に高価な貨物や壊れやすい貨物の場合は、買主側で別途追加の保険(上乗せ保険)を検討することが重要です。
最適なフォワーダー探しなら「ロジミーツ」
最適なインコタームズを選ぶだけでなく、実際にその条件で輸送を担ってくれる信頼できるフォワーダーを見つけることも、国際貿易の成功には不可欠です。しかし、数多くのフォワーダーの中から自社に最適な一社を見つけ出すのは簡単なことではありません。
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まとめ:インコタームズを制する者が、貿易を制す
インコタームズは、一見複雑に見えるかもしれませんが、国際貿易におけるトラブルを防ぎ、円滑な取引を実現するための非常に重要なルールです。自社が輸出者なのか輸入者なのか、どのような商品を、どこへ、どのように運びたいのかを明確にし、それぞれの規則のメリット・デメリットを理解することで、自社にとって最も有利な条件で取引を進めることができます。
最適なインコタームズの選定や、複雑な国際物流に少しでも不安があれば、専門家であるフォワーダーに相談するのが一番の近道です。彼らは、貴社の状況に合わせた最適な貿易条件を提案し、複雑な手続きを代行してくれます。
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