国際輸送では、荷役中の落下、海水による濡れ、盗難、船の事故など、さまざまな原因で貨物が損害を受ける可能性があります。運送会社が補償する範囲には上限があるため、貨物の価値に見合った補償を得るには貨物保険を掛ける必要があります。
貨物保険では、①誰が保険を手配するか、②どの条件で掛けるか、③いくらで掛けるか、④事故が起きたときに何をするか、を事前に決めておくことが大切です。この記事では、輸出入の荷主が知っておきたい貨物保険の基本をまとめます。
1. 運送会社の補償と貨物保険の違い
船会社や航空会社などの運送人は、条約や法律、運送約款に基づいて損害の責任を負いますが、その範囲には次のような制限があります。
- 責任の上限:重量や個数あたりの上限額が定められており、高価な貨物では損害額を大きく下回ることがあります。
- 免責:天災や航海上の過失など、運送人が責任を負わない事由があります。
- 請求の手間:運送人の過失を荷主側が示す必要があり、解決まで時間がかかることがあります。
貨物保険は、こうした制限とは別に、契約した条件の範囲で損害を補償します。保険会社が支払った後、運送人への請求は保険会社が行うのが一般的です。
2. ICC(A)(B)(C)の違い
外航貨物海上保険では、ロンドン保険業者協会の協会貨物約款(ICC)が広く使われています。補償の範囲が広い順に(A)・(B)・(C)の3つの条件があります。
| 条件 | 補償の範囲 | 向いている貨物の例 |
|---|---|---|
| ICC(A) | 免責事由を除き、偶然の事故による損害を広く補償。破損・濡れ・盗難なども対象 | 精密機器、完成品、破損しやすい商品 |
| ICC(B) | 火災、沈没、座礁、衝突、地震、海水の浸入など、列挙された事故による損害 | 破損しにくい原料、ばら積みに近い貨物 |
| ICC(C) | (B)より狭く、火災・沈没・座礁・衝突などの重大な事故による損害が中心 | 損害を受けにくい資材、費用を最小限にしたい貨物 |
いずれの条件でも、梱包の不備、貨物そのものの性質による劣化、遅延による損害などは補償の対象外とされるのが一般的です。戦争やストライキによる損害は基本の条件に含まれないため、必要に応じて特約を付けます。
船の事故で共同海損が宣言された場合の分担金も、貨物保険で補償されるのが一般的です。共同海損の解説もご覧ください。
3. インコタームズと保険の手配者
貨物保険を誰が手配するかは、売買契約の取引条件(インコタームズ)によって決まります。
- CIF・CIP:売り手が買い手のために保険を手配します。インコタームズ2020では、CIFは最低限ICC(C)相当、CIPはICC(A)相当の補償が求められます。
- FOB・CFR・FCA・CPTなど:売り手に保険を手配する義務はありません。危険が移転した後の区間は、買い手が自ら保険を手配する必要があります。
- EXW・DAP・DDPなど:危険の移転する場所に合わせて、それぞれが負担する区間の保険を検討します。
取引条件の詳細はインコタームズの解説をご覧ください。「保険は相手が掛けているはず」と思い込まず、保険証券の写しや条件を確認しておきましょう。
4. 保険金額と保険料
保険金額は、一般的にCIF価格(またはCIP価格)の110%で設定されます。上乗せ分の10%は、輸入者が見込む利益や諸費用を補うためのものです。
保険料は、保険金額に保険料率を掛けて計算します。料率は、貨物の種類、梱包、仕向地、輸送方法、補償条件、過去の事故の実績などによって変わります。継続して輸出入する場合は、一定期間の貨物をまとめて対象にする包括予定保険を契約すると、手配の漏れを防げます。
国際輸送の区間だけでなく、工場から港まで、港から納品先までの国内輸送の区間も補償の対象になっているかを確認してください。保険の開始と終了の場所は、保険証券に記載されます。
5. 事故時のクレームの流れ
- 受け取り時の確認:外装の破損・濡れ・個数の不足があれば、受領書類に損害の内容を記載(リマーク)してから受け取ります。
- 保険会社への連絡:損害を見つけたら、すぐに保険会社や代理店に連絡します。損害の拡大を防ぐ措置も取ります。
- 証拠の保全:貨物・梱包・コンテナの写真を撮り、損害品は処分せずに保管します。必要に応じて鑑定人(サーベイヤー)が調査します。
- 運送人への通知:運送人に対して、損害を通知する書面(クレームノーティス)を期限内に送ります。
- 保険金の請求:保険証券、インボイス、パッキングリスト、B/L・AWB、損害の証拠、修理の見積書などを提出します。
運送人への通知には短い期限があることが多く、遅れると保険会社が運送人に請求できなくなり、保険金の支払いにも影響する場合があります。事故への備えは国際物流のトラブル事例も参考になります。
6. よくある質問
貨物保険はどこで手配できますか?
損害保険会社や保険代理店のほか、フォワーダーが保険の手配を取り次ぐこともあります。見積もりを依頼するときに、保険の手配を含めるかを伝えましょう。
航空便にも貨物保険は必要ですか?
航空貨物にも、運送人の責任には上限があります。高価な貨物は、航空便でも保険を検討してください。航空貨物向けの約款が使われます。
保険を掛けていれば、梱包が簡易でも大丈夫ですか?
梱包の不備による損害は補償されないのが一般的です。輸送方法と期間に合った梱包を行うことが前提です。
参考情報と関連ガイド
本記事は一般的な貨物保険の仕組みを説明するもので、個別の補償内容は保険証券と約款によります(確認日:2026年10月12日)。契約前に保険会社・代理店に条件をご確認ください。