塗料、接着剤、インク、スプレー缶、アルコールを含む製品、洗浄剤、リチウム電池を内蔵した機器。身近な製品でも、海上輸送では「危険物」として扱われることがあります。危険物であることを伝えずに手配すると、船積みを断られるだけでなく、事故や法令違反につながるおそれがあります。
危険物を海上輸送するときは、まずSDS(安全データシート)で危険物に当たるかを確認し、引き受けてくれる船会社・航路を探したうえで、容器・表示・書類を準備します。この記事では、その流れと、見積もり依頼で伝えるべき情報を解説します。
この記事は手配の流れを紹介するものです。個別の貨物が危険物に当たるか、どの規則が適用されるかは、SDSや製造元の情報をもとに、危険物の取扱いに対応できる物流会社・専門機関に確認してください。
1. 危険物に当たるかをSDSで確認する
海上輸送の危険物は、国際海事機関(IMO)が定めるIMDGコード(国際海上危険物規程)で分類されます。日本では、船舶安全法に基づく危険物船舶運送及び貯蔵規則(危規則)で、容器や表示、積載方法などの基準が定められています。
危険物に当たるかを確認する最初の資料が、製造元・仕入先が発行するSDSです。SDSの「輸送上の注意」の項目に、次の情報が記載されていることがあります。
- 国連番号(UN番号):危険物を特定する4桁の番号。
- 品名(正式品名):輸送書類に記載する名称。
- クラス(分類):危険性の種類。
- 容器等級:危険性の程度に応じた区分。
- 海洋汚染物質の該当:海洋環境に有害な物質かどうか。
SDSがない、古い、記載が不十分な場合は、まず製造元に最新版を依頼しましょう。輸出先の言語や規格に合ったSDSが求められることもあります。
「一般の製品だから大丈夫」とは限らない
化粧品のスプレー、香水、消毒用のアルコール、磁石を含む部品など、日常的な製品でも危険物に当たる場合があります。電池についてはリチウムイオン電池の輸送ガイドもあわせてご覧ください。危険物の基礎知識はIMO(危険物)の解説でも紹介しています。
2. IMDGコードの9つの分類
| クラス | 分類 | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 火薬類 | 花火、火工品 |
| 2 | 高圧ガス | スプレー缶、ガスボンベ |
| 3 | 引火性液体 | 塗料、インク、接着剤、アルコールを含む製品 |
| 4 | 可燃性物質 | マッチ、一部の金属粉 |
| 5 | 酸化性物質・有機過酸化物 | 一部の漂白剤、硬化剤 |
| 6 | 毒物・病毒をうつしやすい物質 | 一部の農薬、検体 |
| 7 | 放射性物質 | 放射性同位元素を含む製品 |
| 8 | 腐食性物質 | 一部の酸・アルカリの洗浄剤、バッテリー液 |
| 9 | 有害性物質(その他) | リチウム電池、一部の海洋汚染物質 |
例はあくまで一般的なもので、同じ種類の製品でも成分や濃度によって分類が変わります。実際の分類は必ずSDSで確認してください。
3. 荷送人が準備すること
危険物の海上輸送では、荷送人(荷主)に容器・表示・書類などの準備が求められます。多くの作業は物流会社のサポートを受けられますが、貨物の情報を正しく提供する責任は荷送人にあります。
- 容器・包装:危険物の種類と量に合った、基準を満たす容器(国連規格の容器など)を使います。
- 表示:容器や外装に、品名・国連番号の表示と、危険性を示す標札(ラベル)を付けます。
- 危険物明細書:品名・国連番号・クラス・数量などを記載した書類を作成します。
- コンテナへの収納:他の危険物との隔離(混載できない組み合わせ)を守って積み付け、コンテナにも標札を付けます。
- 検査:危険物の種類によって、容器やコンテナへの収納に関する検査が必要になります。
少量でも「少量危険物」の条件を確認する
1容器あたりの量が少ない危険物には、一部の要件が緩和される規定があります。ただし、使える条件は品目ごとに決まっており、表示などの要件はなくなりません。「少量だから一般貨物」と自己判断せず、物流会社に確認しましょう。
4. 一般貨物より増える費用と日数
引き受けの確認に時間がかかる
危険物は、船会社ごとに引き受けられるクラスや数量が決まっており、港や経由地によって制限があることもあります。ブッキングの前に船会社の承認が必要なため、一般貨物より回答に日数がかかります。出荷日が決まっている場合は、早めに依頼しましょう。
また、危険物を受け付ける混載(LCL)サービスは限られます。少量の危険物では、利用できる航路・便が少なく、FCLや航空輸送と比べて判断することもあります。LCLとFCLの考え方はLCLとFCLの違いをご覧ください。
見積もりに加わりやすい費用
- 危険物の割増運賃:船会社が危険物に設定する追加の運賃。
- 書類作成・申請費用:危険物明細書の作成、船会社への申請。
- 検査費用:容器やコンテナへの収納に関する検査。
- 表示・梱包費用:標札の作成・貼付、基準に合った容器への詰め替え。
- 港での取扱いに関する費用:危険物の種類によって、港での保管や搬入の方法に制限がある場合の費用。
費用の名称や計算方法は会社によって異なります。どの作業が含まれているか、発生した場合のみ請求される費用は何かを確認して比較しましょう。
5. 見積もり依頼で伝える項目
- 危険物の情報:SDS、国連番号、正式品名、クラス、容器等級、海洋汚染物質の該当。
- 容器と数量:容器の種類、1容器あたりの量(kg・L)、容器の数、総重量。
- 危険物以外の貨物:同じコンテナに一般貨物を積む場合は、その内容。
- 区間と日程:出荷元、仕向地(港・納品先)、出荷可能日、希望到着日。
- 範囲:容器・表示・書類の準備をどこまで依頼するか、通関・配送・保険の要否。
危険物の見積もり依頼文例
下記の危険物について、海上輸送のお見積もりをお願いいたします。SDSを添付します。
品名:[例:溶剤系の工業用塗料]/国連番号:[UN〇〇〇〇]/クラス:[3]/容器等級:[Ⅲ]
容器:[18L缶×40缶、1缶あたり約〇kg]/総重量:[〇kg]
出荷元:[住所]/仕向地:[国・港・納品先]
出荷可能日:[日付]/希望到着日:[日付]
範囲:[例:危険物明細書の作成、検査の手配、輸出通関、海上運賃まで]
引き受け可能な船会社・航路、LCL・FCLの可否、危険物に関する追加費用、承認までに必要な日数をご提示ください。
輸出見積もりに共通する項目は輸出見積もりの依頼ガイドで確認できます。
6. よくある質問
危険物であることを伝えずに送るとどうなりますか?
輸送中の事故の原因になるほか、法令違反や、船会社からの損害賠償の請求につながるおそれがあります。危険物に当たる可能性がある場合は、必ず事前に伝えてください。
SDSで「危険物に該当しない」とされていれば、一般貨物として送れますか?
SDSの輸送上の注意に非該当と記載されている場合でも、船会社によってはSDSの提出を求められます。SDSは最新版を用意し、依頼時に添付しましょう。
航空輸送と海上輸送で、危険物の扱いは同じですか?
分類の考え方は共通する部分が多いものの、航空輸送は別の規則が適用され、量の制限などが異なります。海上では運べても、航空では運べない、または条件が厳しい品目もあります。
危険物に対応できる物流会社はどう探せばよいですか?
同じクラスの危険物の取扱実績、対応できる航路、書類作成や検査の手配をどこまで任せられるかを確認しましょう。選び方の観点はフォワーダーの選び方をご覧ください。
参考資料
確認日:2026年9月28日。危険物の分類・要件は規則の改正により変わることがあります。個別の貨物の扱いは、物流会社・専門機関に確認してください。